認知症患者と口腔ケアの関連性とは?

2023.01

超高齢化社会を迎えた日本では、認知症患者になる懸念のある人は年々増加傾向にあると言われています。
厚生労働省は全国で認知症患者の数が2025年には700万人を超え、認知症と軽度認知障害(MCI)で1300万人を突破すると発表しています。
(参考:認知症患者は2025年に700万人を突破。65歳以上の5人に1人

また、昨今では認知症と口腔ケアの関連性も指摘され、高齢者、認知症患者にとって口腔ケアの重要性が見直されています。

そこで、今回は認知症患者と口腔ケアの関連性と、認知症患者への口腔ケアのポイントをまとめます。

認知症患者のお口の中の状況とは?

どんなに健康な人も、加齢と共にお口の機能は低下していきます。
口腔機能が低下すると、「食べる」ことや「話す」ことが難しくなってしまいます。

特に、認知症状のある方は食事やコミュニケーションをとることが難しい状況に置かれており、口腔機能の低下により、生活への支障が大きくなってしまう恐れがあります。
また、認知症の特徴の一つでもある、生きる気力がなくなり、身体的な機能も含め、様々な問題を抱えてしまうケースがあります。
そうなると自分で口腔内をケアすることが難しくなるため、当然、口腔内の環境は劣悪なものになります。むし歯や歯周病などのトラブルはもちろん、その他の感染症にかかることもあります。
口腔内の細菌による感染症は誤嚥性肺炎といった病気を引き起こす要因になることが多く、高齢者・認知症の患者さんの場合、特に注意が必要です。

高齢者や認知症の患者さんは義歯を使用していることが多く、しっかりと口腔ケアをしないと、食べ物などのカスが義歯と歯茎の間に残ってしまって、口腔内トラブルの原因の一つになります。

さらに認知症の患者さんは認知機能低下により、身だしなみを整えることを忘れてしまうこともあれば、食事をしたかどうかも分からなくなる場合があります。口腔ケアそのものを忘れてしまうこともあり、認知症の方のお口の中はトラブルを抱えてしまっていることが多く、注意が必要です。

認知症と口腔ケアの関連性

近年、認知症の予防に口腔ケアが効果的だということが報告されています。
その理由の一つに、噛む行為によって三叉神経から大脳皮質が刺激され脳が活性化するからというものがあります。
咀嚼(噛む)することで脳の中の海馬の神経細胞が増え、認知症予防につながるということです。

しかし、口腔ケアを怠ってしまうと歯を失う可能性が高くなり、噛むことができず咀嚼機能が低下していきます。食事から必要な栄養が摂取できず、認知機能および様々な運動機能が低下するという影響が出ることが考えられます。

また、歯周病により歯茎の炎症した部分から細菌感染し、血液を通して神経損傷を引き起こす場合があります。体の中で炎症反応を起こしていると血管に障害をうけ動脈硬化を引き起こしやすくなり、認知症の発症につながります。

口腔ケアで認知症の症状が改善?!

口腔ケアを行うことで、三叉神経から大脳皮質が刺激されて脳が活性化し、認知症予防につながることがわかりましたね。
では、すでに認知症状のある方は、口腔ケアを行うことで認知症の症状は改善するのでしょうか。

答えは、残念ながらNOです。

一度、認知症になってしまうと、いくら口腔ケアを頑張ってもその症状は改善はしません。
しかし、軽度の認知症状の方だと、口腔ケアを続けることにより認知機能が低下する可能性があるという研究結果がでています。(参考:https://www.jages.net/library/pressrelease/?action=cabinet_action_main_download&block_id=4030&room_id=549&cabinet_id=253&file_id=9294&upload_id=11907

つまり、認知症状の進行を遅らせることができるのです。

認知症の患者さんの口腔ケアのポイントは?

認知症の方の口腔ケアは、なかなかスムーズにいかない場合があります。
まずお口を開けることができないことから始まり、歯ブラシを噛んでしまったり、また介護士さんの指を噛んでしまうといったトラブルがよく聞かれます。

でも、認知症の方の口腔ケアにはポイントがあります。そのポイントを押さえて、心地よい口腔ケアを提供しましょう。

ケアを始める前に必ず声がけをする

認知症の方に限らず、誰しも何の説明もなくお口の中に歯ブラシなどの異物を入れられるのは嫌なものです。
これからお口の中に歯ブラシを入れること、歯を磨くということをしっかりと優しく伝えるようにしましょう。

楽な姿勢、心地よい姿勢で行う

認知症の方でなくても、口腔ケアは楽な姿勢、心地よい姿勢で行いたいですよね。認知症の方が苦痛と感じないリラックスできる姿勢を見つけましょう。

時間をかけすぎず、スピード感を持ってケアする

認知症の方は義歯のことが多く、その義歯のケアも必要です。そのため、口腔ケアにはある程度、時間がかかってしまいます。しかし、あまり時間をかけすぎてしまうと集中力が続かず、肝心のお口の中のケアができなくなってしまうので注意が必要です。
途中で嫌がるような表情があったら、一旦中断してもよいでしょう。

表情を見ながらケア中も声がけを忘れない

痛そうな表情をしていないか、苦しそうではないかなど表情の変化に気を付けながら、都度お声がけをしましょう。

固定観念を捨て、できる時にできることを行う

食事の後に絶対、口腔ケアをしなければ!というルールを作ってしまうのではなく、認知症の方の調子のよい時を見計らって、柔軟に口腔ケアを行いましょう。
できる時にできることを行うのがポイントです。

口腔ケア終了後も声がけを

予定通りの口腔ケアが終了したら、上手にできたことを伝え、今回の口腔ケアが終了したことを伝えて安心感を与えましょう。

まとめ

口腔ケアはお口の中を清潔に保ち、お口の健康を守るだけでなく、認知機能と深く関わっていることが分かりました。

しかし認知症になってしまうと、口腔ケアをスムーズに行うことが難しくなってしまいます。そんな時でも、口腔ケアは気持ちがよいものとして理解してもらえるよう、決して無理やり行うのではなく、相手の立場に立って丁寧な口腔ケアを行うようにしましょう。