嚥下障害のある高齢者への対応

2023.04

みなさん、こんにちは。歯科衛生士の中村です。
前回(https://quom.jp/blog/20230314/)は、高齢者の口腔内では唾液の分泌が減り、
口腔乾燥、自浄作用などの唾液の機能低下、細菌の増殖などによって、むし歯や歯周病が進行しやすくなったり、口臭が強くなるなどの症状が出るというお話をしました。
いつものケアはもちろん、工夫の一つとして唾液腺マッサージや殺菌作用の高い歯磨剤、高機能な保湿ジェルを使っていきましょうとご提案したかと思います。

今回は、唾液の減少から起こる障害の一つ、「摂食嚥下障害」とその対応について考えていきましょう。

高齢者の摂食嚥下障害とは

加齢とともに、食べる・飲み込むために必要な筋力が衰え、誤嚥をしやすくなる

誤嚥したときに、それを咳とともに排出する力が弱くなる

免疫力が低下し、肺炎を起こしやすくなる

というように、摂食嚥下障害で生じる問題は、肺炎・窒息・低栄養・脱水など生命の危険に直結する、とても深刻なものばかりです。また、食べることの障害は、医学的リスクだけでなく、食べる楽しみを失うというQOLの観点からも重要な問題と言えます。

摂食嚥下障害がある方に対する対応は?

まずは口腔ケアと乾燥予防、リハビリテーションが大切です。
口腔ケアで細菌のコントロール、乾燥予防で誤嚥・痛み・口臭リスクの管理、リハビリテーションで筋肉に刺激を与えることができます。

口腔ケアの重要性

当たり前ですが、口腔ケアは摂食嚥下障害へのケアにおいても必要不可欠なものです。口腔内を清潔にすることで食物残渣や細菌を除去し、口腔内の衛生状態を改善します。
口腔ケアには基本的に、歯ブラシを用いますが、スポンジブラシや歯間ブラシ、高濃度フッ化物や高機能な保湿ジェルを併用し、歯の汚れを落とすことのほか、粘膜、舌もケアしましょう。
ポイントとして、歯磨剤を水なしで使用できるものにすると、すすいだり吐き出したりしていただく必要がなく、より安全にケアをすることができます。

口腔の乾燥による誤嚥や痛み、口臭を防ぐ

乾燥により、食塊形成が阻害され誤嚥の原因となります。また、粘膜保護作用が低下し、傷がつきやすくなったり、摩擦が起こったりして痛みがでます。さらに自浄作用の低下による口臭は、ご本人だけでなく周りの人にも不快感を与えます。
対応方法の一つとして、保湿ジェルがあります。
口腔ケア時に使用すれば、効果を長時間維持させることができます。
また、ご自身で使用していただくこともできるので、操作性の良いものをおすすめしてみましょう。

口腔リハビリテーションで筋肉を刺激

健康な人は1日600回程度、嚥下運動をしていると言われています。
普段特に意識することはありませんが、食べたり話したりしながら自然にこの運動を行っています。ところが、唾液の分泌が減った高齢者は、この運動が減るため筋肉が衰えてしまいます。
口腔リハビリテーションによって筋肉を刺激することができますので、今回は衰えた筋肉を刺激し動かす「口腔周囲筋ストレッチ」をご紹介します。

口腔周囲筋ストレッチ

ストレッチを行うにあたり大切なのは、お互いに怪我なく安全に、患者様を最優先に実施し無理をしないことです。また、患者様に気持ち良いと感じていただけるよう、乾燥や痛みを与えない工夫として、操作性の良い高機能な保湿ジェルやしなやかなスポンジブラシを選びましょう。

ストレッチをする際に用意するもの
  • 保湿ジェル(固まらない、伸びが良いもの)
  • スポンジブラシ(しなやかで、凹凸のあるもの)
  • 歯ブラシ
  • 歯磨剤(水なしで使用できる、泡立たない、フッ素高配合、吸い取りやすいもの)
  • バイトブロック(指サックタイプのものがおすすめ)
ストレッチと口腔ケアの方法

ここではストレッチから口腔ケアの一連の流れをまとめてご紹介します。

まずはストレッチから始めましょう。
1.保湿ジェルを手の甲に出し、人差し指で取る。
2.保湿ジェルを下唇の口角→上唇の口角の順に優しく塗って、滑りをよくする。
3.そのままの流れで指を口角から滑り入れて、指の腹を使って左右の頬の内側をほっぺを広げるようにマッサージする。すると、少しずつ唾液が出てくる。

ここからは口腔ケアを行います。
4.水に浸して絞ったスポンジブラシに保湿ジェルをつけて、口角から入れる。
5.噛んでいただいたままの状態で、奥から手前の順で「一方通行」にスポンジブラシを移動させ、マッサージと食物残渣の除去を行う。歯牙だけでなく粘膜ケアが重要!
6.できれば歯ブラシに持ち替えて頬側のブラッシングをする。頬側のケアまでで約6割の汚れが取れる。フッ化物を使用するとなお効果的。
7.舌側を磨くために、開口を促す(★)。
開口ができたら、親指で顎を支えながら舌側をケアする。この時、舌も一緒にケアする。開口が維持できない場合はバイトブロックを使用する。バイトブロックを噛んでいると唾液を飲みにくいため、こまめにスポンジブラシで吸い取るのを忘れないこと。

(★)開口を促す方法
  • Kポイント(臼後三角のやや後方の翼突下顎縫線の内側にある部位のことで、同部位を軽く触れると開口反射が誘発され開口することがある)を刺激する。
  • 最後臼歯の遠心三角にアクセスする。
  • オトガイ孔(3番・4番の根尖付近)を押す。押されると痛みがあるので、「痛いですよ、ごめんなさい」と必ず声掛けをする。

まとめ

いかがでしたか?
今回は摂食嚥下障害のある方への口腔ケアやストレッチの方法についてご紹介しました。

記事で解説した内容と、歯科医師・歯科衛生士としての専門的なテクニックを存分に発揮して、ケアを行っていければいいですね。
時々ご自身でも自分の口腔内を直接触って、力加減を確認するのも大切ですよ。
また、口腔リハビリテーションは、ストレッチの他、会話をすること、表情を動かすこと、歌を歌うことなども有効です。口腔に関するプロフェッショナルとして、患者様に適したアドバイスをして差し上げましょう。