要介護者・高齢者に適した歯みがき剤について
2023.06
高齢者の口腔ケアは歯みがき剤を使っていなかった時代もあったようですが、最近は「使った方が良い」という認識にすっかり変わりました。
というのも、介護を必要とする高齢者向けの機能的な歯みがき剤が次々と出てきているからです。今回は、歯みがき剤選びのポイントを一緒に確認していきたいと思います!
高齢者のお口の中の特徴は?
高齢者のお口の中の特徴をおさらいしておきましょう。
<歯>
- 治療した跡が多い
- 孤立歯、残根歯があることが多い
- 歯間部が広い
<粘膜・唾液・筋肉>
- 加齢や薬の副作用により唾液分泌量が減少し乾燥しがちとなり、自浄作用の低下が見られる
- 歯肉退縮や楔上欠損などによる歯根の露出が高頻度で発生する
- 感覚の鈍化がみられ、自身で口腔内の変化に気が付きにくくなる
- 舌や口腔周囲筋の運動機能低下が起きている
上記の特徴を踏まえて、高齢者の口腔ケアについては以下の点に注意しましょう。
- 誤嚥性肺炎
- 入れ歯のお手入れ、細菌管理
- 根面う蝕
- 乾燥した粘膜への配慮
- ケア時の姿勢
- 体力に合わせて短時間で行い、効率化を図る
口腔ケアを行う2大メリット
要介護者や高齢者の方の口腔ケアに取り組む際は、ケアを行う目的やメリットをしっかり理解し、思いやりやプロとしての意識を持つことが大切です。
歯磨き剤をご紹介する前に、口腔ケアを行うメリットについて理解を深めていきましょう。
①口腔内のトラブル予防、機能の維持・向上・回復につながる
トラブル予防…細菌減少によるむし歯や歯周病、誤嚥性肺炎の予防
機能維持回復…唾液分泌量促進、自浄作用、口臭予防
機能向上…動かす・噛む・飲む・話す→認知症予防にもつながる
②QOL(生活の質)の改善につながる
口腔ケアで口腔内が健康になる
↓
しっかり噛める、食いしばれる、飲み込める
↓
味覚がはっきりする、食欲が湧く、栄養が摂れる、エネルギーが湧く
↓
全身の健康と自立支援へ
要介護高齢者の歯みがき剤を選ぶ5大ポイント
1.むし歯予防の観点からフッ化物を配合していること
先に述べたように、高齢者の口腔内は乾燥による自浄作用の低下、根面露出、孤立歯、残根歯など、慢性的にむし歯リスクが高い状態になっているためです。
2.歯周病菌などの細菌コントロールの観点から殺菌作用を有すること
繰り返しになりますが、細菌の多く繁殖した状態で誤嚥をおこしてしまうと誤嚥性肺炎につながるリスクが高まるためです。
3.研磨剤無配合であること
加齢や咬耗、楔上欠損が生じている口腔内は歯質(エナメル質)をこれ以上失わないよう配慮することが大事なためです。
4.発泡剤が配合されていないこと
泡立たないため誤嚥につながりにくく、安全に磨くことができます。さらに汚れ等が目視しやすいという利点もあります。
5.水なしで使用可能・うがい不要であること
要介護高齢者の中には、寝たきりや麻痺で自力でのうがいが困難な場合もあるため、水なしで使用できるものがおすすめです。また、口腔内により多くのフッ素や有効成分を残しておくことができます。
口腔内に残った余分な水分は「スポンジブラシ」で吸い取りましょう。コツはぎゅっと絞ったスポンジブラシを舌の下や下顎と頬粘膜の間に入れてそっと押し付けることです。何度か繰り返すとすっきりと水分を吸い取ることができます。
歯みがき剤を使用する時のポイント
歯みがき剤のつけすぎに注意しましょう。一度にたくさん歯ブラシの先につけても、口腔内にボタっと垂らしてしまったり、歯みがき剤が口腔内全体に行き渡らず1箇所にしか留まらない可能性があります。
誤嚥のリスクにもつながりますので、目安として歯ブラシのヘッド1/2以上の量は乗せない、などルールを決めるのも良いかと思います。
または、歯ブラシに直接出さず、手の甲にあずき大程度をのせて、都度歯ブラシの毛先につけてブラッシングするのも大変良い方法です。
少量を少しずつお口の中に運ぶことで安全かつ効率的に、さらに歯みがき剤を薄まらせず使用することができます。
また、程よい硬さで手の甲の上で垂れない歯みがき剤が便利です。緩すぎると垂れ、硬すぎるとうまくブラシですくえません。選ぶときのポイントの一つにしても良いですね。
フッ素配合の歯みがき剤を効果的に使用する
ここまででわかるように、特に要介護者・高齢者の方々は丁寧な口腔ケアを心がけてリスク管理を行うことが、お口の健康を守るだけでなく、その方の人生も豊かにすることにつながっていきます。
そこで欠かせないのが「フッ素」です。
フッ素には再石灰化促進、脱灰抑制、歯質強化、酸産生の抑制といった効果があります。フッ化ナトリウムはもちろん、むし歯予防だけでなく、歯肉炎予防にも効果的なフッ化第一スズ配合の歯みがき剤をうまく活用して、要介護者・高齢者のお悩みにもしっかりと対応していきましょう。
まとめ
いかがでしたか?
普段、何気なく使用している歯みがき剤ですが、なぜ使用するのか、どう選んだら良いのか、どう活用するのかなど、再認識していただけましたでしょうか。
また、私たちの仕事が患者様の人生をより豊かにすることができることを改めて認識することで、誇りと喜びを持って日々の業務に取り組むことができますね。
この記事が、みなさんの毎日のお仕事のお役に立てれば幸いです。