根面う蝕になりにくいケアとは? 正しく理解して予防しよう
2023.05
今回は、根面う蝕について考えていきましょう。さて、「8020運動」の効果もあり、80歳で歯が20本以上残っている人の割合は、平成28年には51%にまでなりました。
※平成28年歯科疾患実態調査よりその一方で、根面う蝕の割合は増えています。なんと50代の約2人に1人は根面う蝕があると言われています。
根面う蝕の原因は?
従来の根面う蝕の発生因子は、「歯の質、細菌、食物」のうち、歯、つまり歯肉退縮・根面露出の割合が多くなることとされています。一方で、高齢者特有の根面う蝕の発生因子は、以下の通りです。
- 身体機能の低下
手指感覚や視力の低下によって、それまでできていたセルフケアのレベルが低下してしまう
- 全身疾患と服薬
全身疾患による身体の不自由や加齢による唾液量の減少、服薬の副作用による口腔乾燥症などがある。特に、がん治療における化学・放射線療法は一時的に唾液の分泌を減らす場合がある
- 食生活
食事回数の増加や味覚の変化、phの高い食事(酢の物や炭酸飲料など)や糖を好んで頻繁に食べる
- 気力の低下
やる気が低下してセルフケアが持続・定着しない
- 歯周病
治癒や不適切なSRPによる歯肉退縮
- 補綴物や義歯
複雑な形態の補綴物や義歯装着部分の清掃性が低いなど
- 楔状欠損
その形状からプラークが停滞しやすく、う蝕になると進行が速い
- 歯髄の変化
歯髄の狭窄によってう蝕の痛みを感じず、発見が遅れる
また、高齢者特有の根面う蝕には下記のような特徴があります。
- 痛くないので自分では気が付きにくい
- 歯髄腔も生理的に狭窄し、歯髄組織全体が退行変性に陥っている傾向にあるので、病巣が歯髄腔に接近しても痛みを感じない
- 環状に進行する
歯頚部を取り巻き、環状に広い範囲に軟化が生じる→歯頚部が脆弱化→咀嚼や歯ぎしりなどの外力により破折する危険性が高い
- 比較的ゆっくりと進行するが、健康状態によって急性化→重症化しやすい
根面う蝕のリスクとは?
根面う蝕は一度なってしまうと、部位の煩雑さや防湿と視野の確保の難しさから、治療が大変困難だといわれています。根面う蝕にさせないために、高齢者を診察する際は以下のポイントをチェックしましょう。
過去1年間に2カ所以上むし歯が発生した
根面う蝕の既往歴がある
多数歯において歯根面が露出している
比較的進行した歯周病がある
不良補綴(修復)物や義歯の装着がある
心身の活力が低下している
不良な口腔衛生状態
フッ化物使用が不十分である
唾液分泌量が少なく、口腔内が乾燥している
定期的に受診することができていない
根面う蝕にならない環境づくりとは?
上記のチェックポイントでハイリスクと診断した場合は、患者さんと二人三脚で、根面う蝕になりにくい環境づくりを行いましょう。
歯科医師・歯科衛生士ができるプロフェッショナルケアとは?
指導内容
- 食事の仕方や選び方などの患者教育や指導をする
- 患者さん一人一人にあったブラッシング指導をする
- フッ化物1,450ppm以上配合の歯磨剤を使用する。特にフッ化第一スズは歯周ポケット内を殺菌できるため、配合されていることが望ましい
- フッ化物洗口を併用するよう指導する
ケア内容
- 定期的にプロフェッショナルケアを行う
- フッ化物の局所塗布を行う
- デンタルフロスと歯間ブラシを用いて、隣接面の清掃を徹底する
- 口腔内自浄作用の改善を目指し、唾液分泌の促進、保湿ジェルを使用する
ケアのポイント
- 手用スケーラーを使用する場合、刃を根面に当てない
- 超音波スケーラーは、リスク部位の積極的な使用は避け、水噴射洗浄のみとする
- コントラ等でポリッシングする時は、ブラシや研磨剤の選択に注意を払う
また、ブラッシング指導も大切です。強すぎるブラッシング圧などの機械的な外傷は、歯肉退縮の直接の原因です。近年は電動歯ブラシの不適切な使用なども原因となっているので、患者さんが使用している場合は、実際に使用しているところを確認し、適切に使用できるよう指導しましょう。
セルフケアのポイントを伝える
患者さんが無理なく継続できるよう考え、セルフケアの大切さを繰り返しお伝えしていきましょう。
サイズの合った柔らかめの歯ブラシを使用する、フッ化ナトリウムとフッ化第一スズのダブルフッ素配合の歯磨剤の使い方(長さ2cmの歯ブラシの2/3程度、約1gといったコツ)、ケア後のうがいは最小限にしたり、水なしで使用できるアイテムをご紹介するなど、すぐに実践いただけるポイントをご提案できるとよいですね。
まとめ
いかがでしたか?
根面う蝕は一度なってしまうと治療が困難で、治療したとしても、2次的にむし歯になったり、結局抜歯が必要になってしまったりなど、予後が不良といわれています。
せっかくここまで大切に守られてきた歯ですから、できるだけ健康で長持ちするようにお手伝いしたいですよね。
早期発見もさることながら、普段からのフッ化物の使用や定期的なプロフェッショナルケアで、徹底的に予防したいものです。
リスクとケアのポイントをしっかりおさえて、これからも患者様の大切な歯を守るお手伝いをしていきましょう!