誤嚥を防ぐケアの重要性について
2023.08
今回は、誤嚥を防ぐケアの重要性についてご紹介します。
なぜ誤嚥を防ぐ必要があるのか?
厚生労働省の『令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況』(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/index.html)によると、高齢者の死因の順位は
1位 悪性新生物
2位 心疾患
3位 老衰
4位 脳血管疾患
5位 肺炎
6位 誤嚥性肺炎
となっており、誤嚥性肺炎が6位、死亡者数でいうと4万人超となっています。
70代以上がかかる肺炎の7〜8割が誤嚥性という報告や、誤嚥性肺炎による死亡者が増加傾向にあることなどから、高齢化の進展に伴い、誤嚥性肺炎になる方は今後もさらに増えていくことが懸念されています。
これらのことから、私たちの行う「口腔ケア」や「機能訓練」で誤嚥を予防することの重要性がより高まってきているといえます。
高齢者が誤嚥性肺炎になりやすい2つの要因
なぜ、高齢者は誤嚥性肺炎になりやすいのでしょうか?
一つ目に、加齢により神経伝達物質が減少し、嚥下機能の低下が起こり誤嚥しやすくなるためです。
通常は食事時、無意識のうちに食物を咀嚼して喉に送り、飲み込みます。しかし、嚥下機能が低下すると、全部を飲み込んだつもりでも食物の一部が喉に残り、息を吸い込んだ時などに食物を一緒に吸い込み、その結果として誤嚥が起こります。
本来ならば、この時に咳反射の働きにより無意識に咳が出て、気道に入りそうになる食物を吐き出しますが、高齢者はこの機能が低下していることが多いため、食物などが気道や肺に入りやすくなります。
さらに、喉の知覚(何かが喉に触れている感覚)も低下しているため、本人も誤嚥に全く気がつかない、また周りの人もむせていなかったから、咳をしていなかったからなどの理由で、誤嚥していないと思い込んでいることもあります。
また、誤嚥をしていることに気づいていなくても、食事により体調が悪くなることから、自然と食事をしなくなったり、食事を拒否することもあります。
このように、症状の訴えがないせいで発見が遅れるケースがあります。
二つ目は、高齢者は日常的に口腔衛生が不良な状態に陥りやすいためです。
誤嚥する物は食物とは限りません。
成人の場合、1日に約600回程度唾液を飲み込むといわれています。唾液の分泌が減少した高齢者はこれほどの回数ではないかもしれませんが、飲み込む唾液が細菌の増えた状態であれば、当然、誤嚥性肺炎発症のリスクは高まります。
口腔衛生が不良になる原因としては、口腔内が乾燥して自浄作用が低下することで発生する舌や粘膜の汚れ、口腔周囲筋の機能低下による食べかすの残留、その結果として口腔内の細菌が多い状態となることなどです。
誤嚥を予防するためには?
高齢者が誤嚥性肺炎になりやすい要因を取り除くことが、誤嚥性肺炎を予防するためには大切です。
- 口腔機能訓練で嚥下機能の維持・向上
- 口腔ケアにより口腔内の細菌をコントロールし清潔に保つこと
この2点がポイントです。私たち歯科医療従事者は、このどちらにも深く関わることができますので、しっかり理解し臨床に生かしましょう。
1.口腔機能訓練で嚥下機能の維持・向上
これは「しっかりと飲み込めるお口作りをすること」です。
美味しく安全に食べるための嚥下体操を支援していきましょう。
また、嚥下機能を維持・向上させるためには、口周辺だけでなく、首や肩の体操も重要です。
首は約5kgある頭を支えているため日常的に負担がかかっており、首のこわばりをほぐすと、呼吸が楽になったり、飲み込みやすくなるといった効果も期待できます。
肩をほぐしてあげると、肺がよく動き、声もよく出るようになります。
嚥下体操の種類と動かし方
食事を待っている間の数分間で行うことができます。また、食事の前に行うことで筋肉がよく動き、体操の効果をより感じていただきやすくなります。
患者様ご本人や介助者の方に指導し、毎日の習慣になるといいですね。
どの体操も無理のない範囲で、ゆっくり行うようにしましょう。
【首】
右に倒す、左に倒す、右を見る、左を見る。
【肩】
両手を上げ3秒キープ、少しずつ手を上げる高さを高くしていく、上げた手を左右に広げて下ろす。難しい場合は、上げる・下げるといった動作だけでも良い。
【頬】
膨らます→凹ますを繰り返す。
【舌】
舌で口の中から頬を押す。
ベーと前に出す、引っ込める。できるようなら目一杯前に出すよう声を掛ける(例:あいうべ体操やパタカラ体操)。
2.口腔ケアにより口腔内の細菌をコントロールし清潔に保つ
以前ご紹介した、「嚥下障害のある高齢者への対応」https://quom.jp/blog/20230411/の口腔周囲筋の項目にある【口腔ケア】を参考にしてみてください。
こちらの記事では、保湿ジェルやスポンジブラシを使用しながらマッサージをして、唾液の分泌を促す、保湿する、汚れを柔らかくし落としやすくする方法、さらに詳しい口腔ケアの方法をご紹介していますので、使用するアイテムなどを含めて参考にしていただけると思います。
まとめ
いかがでしたか?
命に関わることもある誤嚥性肺炎。私たち歯科医療従事者によるケアや介入で、誤嚥性肺炎で苦しむ方を減らすことができるかもしれません。
この記事が、少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。